子どもは、ヒーローではなく、未来の自分を観ているー親愛なる隣人・スパイダーマンが、子どもの心に残る理由ー





 ーー子どもは、スパイダーマンを、観ているのではない。

 スクリーンの向こうで、未来の自分を、観ている。



 弱くても、いい。迷っても、いい。

 失敗しても、愛されていい。



 その言葉は、1度も語られない。

 けれど物語とは、言葉よりも深く、子どもの心に、刻まれていく。



 そして何年後か、人生につまずいた日、その子は理由もわからないまま、もう1度立ち上がる。

 あの日、映画館で受け取った「大丈夫。」という物語を、心のどこかで覚えているからーー。








  ー本当に子どもの心に残るのは、勝った物語ではない。負けても、終わらなかった物語であるー



 子どもは「ヒーロー」を観ているようで、実は「自分」を観ています。

 スパイダーマンは、生まれた時から、特別だったわけではありません。



 彼は、突然力を手に入れただけの、普通の高校生ですーー。


   ☆友達との距離に悩み

   ★好きな人の前では緊張し

   ☆助けようとして、大人に迷惑を掛けてしまう


 ーーだから子どもは、彼を遠い存在だと、思いません。






 子どもは、大人が思う以上に、失敗を恐れていますーー。


   ★テストで、良い点が取れなかった

   ☆友達と、上手く話せなかった

   ★先生に、注意された


 ーーその1つ1つが、小さな挫折として、心に残ります。



 
 だからこそ、何度倒れても立ち上がるピーター・パーカーの姿は、子どもの心に深く届くのです。


 「失敗しても、終わりじゃない。」

 このメッセージは、言葉で教えられるよりも、物語の中で体験した方が、ずっと心に残ります。










 ーー子どもは、映画館で勇気を受け取るのではない。



 「どんな、自分になりたいか?」

 その問いの、種を受け取っている。



 その種は、すぐには芽を出さない。

 けれど何年も後、人生の雨に打たれた日に、静かに根を張り始める。



 だから子どもは、今日もスパイダーマンを観る。

 ヒーローに、会うためではない。未来の自分に、会うためにーー。






  ー子どもは、スクリーンの向こうに、ヒーローを観ているのではない。いつか出逢う、自分自身を見つめているー



 トム・ホーランド『アベンジャーズ』のスパイダーマンには、1つ大きな特徴があります。



 彼は、最強ではない。寧ろ、いつまでも完成しない少年だーー。


   ☆アイアンマンのような、圧倒的な力はない

   ★ソーのような、神ではない

   ☆キャプテンのような、完成された人格ではない


 ーーそれでも、人を助ける事だけは、諦めない。



 子どもが見つめているのは、力ではありません。

 子どもが見つめているのは、誰かの為に、1歩を踏み出す心です。






 発達心理学では、子どもは「理想像」を真似するのではなく「少し先を歩く人」を真似すると、考えられています。


 
 赤ちゃんは、大人のようには、歩けません。

 しかし、1歩先を歩く少し年上の子どもの姿を見て「自分にも、できる」と、感じます。


 人は、自分とかけ離れた存在には、希望を抱けない。

 希望とは、届きそうな距離にあるものにしか、生まれない。



 「親愛なる隣人」であるトム・ホーランドのスパイダーマンは、その絶妙な距離にいます。








 
 ーー私たちは、子どもに「頑張りなさい。」と、教える。


 でも、子どもが本当に知るべきなのは、頑張った先ではないと、私は思う。

 頑張れなかった日の、自分との向き合い方ではないか、と。




 スパイダーマンが、他のヒーローと異なる点は、そこにある。

 転ばない方法ではなく、転んだ後も、人生を諦めない、自分を嫌いにならない方法を、教えてくれる。



 スパイダーマンを観る理由は、強さを借りるためではない。


 「失敗しても、また始められる。」

 その小さな希望を、もう1度思い出すために。



 それは、ヒーローを描いた映画ではない。

 未来の自分へと贈る、1枚の手紙なのかもしれないーー。

 


 



  ー



 子どもの脳は、まだ完成していません。

 だから未来を、論理で考える事は、難しいです。


 その代わりに「物語」で未来を、学ぶ。子どもにとって「物語」とは、未来の予行演習であるーー。


    ☆悲しみとは、何か

    ★友情とは、何か

    ☆失うとは、何か

    ★許すとは、何か


 ーーそれらを、安全な世界の中で、何度も何度も体験していく。


 映画やアニメとは、子どもにとって、単なる娯楽ではなく、人生を学ぶ教科書でもあります。





 スパイダーマンは、力を得ても、自由にはなれませんでした。

 寧ろ、力を得てから、彼の心は少しずつ重くなっているように、私には映っていました。


 誰かを守るという事は、誰かを守れなかった事を、一生抱えて生きていく事になるのだから。

 この苦しみが、彼を少年から青年へ、青年から大人の男へと、していく。




 私は、子どもがスパイダーマンに夢中になるのは「空を飛びたいから」でも「敵を倒したい」からでもないと、感じています。

 子どもが心の奥で求めているのは、昨日を背負ったまま、今日を歩き出せる人だと、思う。



 人は、生きていれば、必ず、転ぶし、壁にぶつかるーー。



   ☆友達との、別れ

   ★受験の、失敗

   ☆仕事での、挫折



 ーー大切な人を、失う時もある。その時、自分を支えてくれるのは「1度も、負けなかった記憶」ではありません。

 その時、自分を支えてくれるのは「何度負けても、自分を信じ続けた記憶」です。



 スパイダーマンは、その記憶を、子ども達の心に、静かに植えています。

 だから子ども達は、映画館を出た後も、彼を忘れない。


 それは、彼がヒーローだからではない。

 彼の中に、未来の自分を見つけるからだ。